目から鱗が落ちました

使い捨て1Dayウロコを通して見えたこと

小倉屋山本の伝説の昆布・えびすめを食べてみた話

えびすめと山椒こんぶのおいしい食べ方

今から数年前の話だ。

2013年9月、作家の山崎豊子さんが他界した。 「白い巨塔」や「沈まぬ太陽」などで有名な、あの山崎豊子さんだ。

当時、ニュースで訃報を知るとともに、山崎さんが、あの大阪に本店のある小倉屋山本の長女・嬢さん(いとさん)であることも知った。

小倉屋山本といえば、あの昆布で有名な店ではないか。 もちろん、店の一番人気は、知る人ぞ知る「えびすめ」だ。

えびすめを買って、母に献上する

この頃はまだ、私は「えびすめ」をただの一度も食したことが無かった。 高級昆布であるえびすめは、お歳暮用の箱入りセットとしても売られている。

美味しいもの好きの母にメールをしてみた。

「えびすめ食べたことありますか?」

「ありません。もちろん、名前は知ってますよ。白い巨塔の再放送も見ましたよ。」

さすが耳も口も肥えた母だけあって、えびすめのことだけでなく、メーカーの小倉屋山本が山崎さんの実家だということまでわかっている。

えびすめの値段は現在、70g1500円ほど。

確かに、家計を切り盛りする、普通の金銭感覚を持つ人間にとって、これが安いわけではない。(2013年当時、これよりは安かった。)

しかし、買えない金額ではない。「美味しいらしい」というえびすめを一度くらい食べても、母も私も罰はあたらないだろう。というわけで、あるとき実家に戻った時に、えびすめを母にプレゼントで買うことにした。

場所は駅前の某大型デパート。 小倉屋山本の売り場では、えびすめの他にも、昆布の佃煮など商品展開が多い。

どれも、美味しそうである。 考えた挙げ句、乾燥塩ふき昆布であるえびすめの他に、醤油で煮込んだタイプの「山椒こんぶ」も一袋買うことにした。

「えびすめ」の味は?

塩ふき昆布のえびすめは、一枚一枚が四角で、名前の通り、塩がふいた昆布だ。 その辺のへなちょこ昆布とは比べ物にならないほどに、ずっしりとした歯ごたえで、昆布の質の良さがよくわかる。

廉価品との違いが明らかなので、贈答用にも喜ばれるだろう。

王道の食べ方でいうと、当然ながら炊きたて白ご飯といただくのが間違いなくおいしい。

塩が小気味よく効いているので、きっと、味の薄い吸い物に入れて食べても、程よい塩加減と出汁で膨らんだ昆布を美味しい頂くことができたのではないかと思うが、それを試す前に、全部ご飯と一緒に食べてしまった。

山椒好きにはたまらない爆弾的「山椒こんぶ」

佃煮タイプの「山椒こんぶ」の食べ方だが、こちらも白ご飯と相性抜群だった。

山椒の風味が律儀なほどに、ちゃんと効いている。山椒好きにはたまらない風味であることには間違いなかったが、たまに、大粒の山椒と遭遇した時には、爆弾が口の中で弾けたように、しばらく口の中の痺れがとれなかった。

冗談ではなく、しばらくの間は何を食べても味がしないぐらいの痺れが残る。

今度買う時は、同じく佃煮タイプの山椒抜きでもいいかもしれないと思う。 山椒の風味が苦手で、しっとりタイプの昆布が好きな人は山椒抜きのものがおすすめ。

昆布屋を舞台に丁稚奉公の世界を描く「暖簾」

昆布屋の長女である山崎さんは、昆布屋を舞台にした小説「暖簾」を1950年代に発表している。

淡路島出身の主人公、吾平は、15歳にして、大阪の昆布屋に丁稚奉公することになる。辛い修行の数々、あまりの激務につい、手洗いで居眠りをしてしまった時には、店の主人から冷水を浴びせられる始末だ。滅私奉公という言葉が生きていた時代の話である。

人によって削った昆布のあし(丈)が短いのや、長いのが出来る。おぼろ昆布の上品(じょうもん)は、あしが長く、幅が平たく薄手なもの、あしが短く幅狭の分厚いものは並品(なみもん)とされた。とろろ昆布の上品はあしが短く、綿花のように細かく削られて、舌の上にのせるととろりと、とろろ芋のような感触を持った。並品はあしが長く舌触りが荒かった。 「暖簾」 山崎豊子

黒とろろ、白とろろ、おぼろ昆布、だし昆布、真昆布などなど、「暖簾」の中に出てくる昆布の数々、その種類を説明する語彙の多さ、表現の多彩さ。

山崎さんは、小説を書く時、徹底した取材の元に執筆をすると聞いていたが、彼女の表現力の豊かさとリアリティが山崎さんの処女作である「暖簾」でもすでに見て取れる。

昆布にちょっと詳しくなったおかげで小倉屋山本の商品選びも楽しくなった。

私の手元には、昭和46年に新潮社から発行された「暖簾」の文庫本がある。十四刷と記されていて、背表紙には、110円と記載されている。当然、消費税導入前の話なので、税表記などはない。 古びた薄い文庫本の中には、丁稚奉公に身を捧げた大阪の商人の世界が広がっている。

白い巨塔のファンの皆様も、いとさんも、なかんちゃんも、こいさんも、ぼんさんも、御寮はんも、一度は、あの四角くて、どっしりとした「えびすめ」を食べるべし。

山崎さんの実家が昆布屋ということを知ってから、パブロフの犬的に、私は山崎さんの小説の表紙を見るだけで「えびすめ」が食べたくなってしかたがない。

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