数ヶ月前の7月14日、「いのちのスープ」の辰巳芳子さんが「サワコの朝」に出演していた。
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料理家としても知られ、たくさんの料理本も出しているので、さぞ料理好きなのかと思いきや、
「お料理は大きい声じゃいえないですけど、大変ですよ」
全国ネットの放送でこの発言。
辰巳浜子さんを母に持ち、母・浜子さんが料理家として活動されていた子どもの頃に料理のお手伝いはしたものの、自分自身が料理家になりたいとは「これっぽっちも思わなかった」とのこと。
学問が好きで、本を読みたいのに、料理に時間がとられるのが嫌だった、など料理家らしからぬ発言が多数でてきた。
たしかに料理は時間がかかる。手間もかかる。
コースで出そうとすれば、タイミングも図らなくてはいけない。
前菜、スープ、メイン、ご飯類。
繊維とタンパク質と炭水化物の割合を考えて、一品ずつの相性を考える。
一人暮らしだったら、多少ズボラでも誰も文句もないけれど、家族がいて、毎日のご飯を考えるというのは結構な労力だ。
私は知らない間に料理好きになっていたので、生まれて初めて「料理が好きじゃない」という発言をした人に会った時にかなり驚いた。
そんな人がいるとは思いもしなかったから。
でも、自分の料理好きがどこからきているのか見直した時、明らかに言えるのは「食べるのが好き」というところだった。
言い換えれば、美味しいものが好き。
朝ドラの「ごちそうさん」で
食べたい気持ちが強いってのは、生きる力が強いってことさ
というセリフが出てきたけれど、私がもし食欲をなくしたら、人間として終わっているかもしれないと思っている。
こんなことは絶対に本人には言えないけれど、過去に友人が作ってくれたごはんが美味しくないということがあった。
それはチャーハンだったり、トマトスープだったりした。
友人宅から家に帰り、ひとりになると何かが自分の中に鬱積していた。
うっすらと自分の中に苛立ちを感じ、同時に失望し、そして落ち込んでいた。
まずいご飯を食べた時の自分のこの反応に、自分でも驚いた。
(でも、もてなしてくれた友人に対してはちゃんと感謝している。)
次の日、チャーハンを自分で作り、とりあえず腹の底に抱えていたなにかを消化した。
チャーハンの負債はチャーハンでしか返せない。
トマトスープの時も、トマトスープで返済した。
自分の口に入るものだけでなく、人をおもてなしする時でも、おいしく食べてもらいたくて仕方ない。
妹の夫(K君)が、わが家に来ることになった時、何を用意しておけばいいかと妹に聞いた。
K君はゼリーが好きだという。
食後のデザートにしたりするのだそうだ。
その日行ったスーパーには私がおいしいと認められるようなゼリーは売っていなかった。
おいているのは、着色した得体のしれない甘味料の入ったゼリーだった。
仕方ないので、寒天を買い、生の河内晩柑をスロージューサーでジュースにして、自家製のゼリーを作った。
そこまでしなくていい、激安の添加物モリモリのゼリーでいいと言われたのだが、止めようにも止まらない。
たとえ死にかけのカブトムシでも、あんな不味そうなゼリーを食べさせることなどできない。
少なくとも、私が住むこの屋根の下では。
私にものを頼むとこうなるということを少なからず知っている妹だったが、「あんたにはもう下手に物を頼めない」と呆れられている。
辰巳芳子さんの「いのちのスープ」に話を戻すと、辰巳さんはスープ作りを父親が脳血栓で入院したために、スープを作り始めたのがきっかけだったという。
一度、病気になった人に付き添ったことがあるとわかるが、病床に伏すと、「食べる」ということがいかにエネルギーを使うことかということがわかる。
ただ食べたいと思っても、噛むことも飲み込むことも、簡単にできなくなる。
辰巳芳子さんも、「スープという吸収のいい形になっているものは病人を助ける」と感じたという。
2人に1人がガンで死ぬ時代と言われている。私自身も家族を病院で看取っている。
これからの超高齢化社会に向けて、「いのちのスープ」は標準化していくかもしれない。